個人的な覚書~C.D.フリードリヒの絵画「虹のある風景」
セザール・フランクの傑作、「交響曲ニ短調」を初めて聴いたのは16歳の時に入手したシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団によるLPレコードだった。半世紀近くが経った今でも好きな演奏である。
当時、このレコードのジャケットに使われていた絵画がとても印象的だったのだが、誰の何という作品か分からないまま長い時間が経ってしまった(特に積極的に調べようとも思わなかったが)。しかし最近になって偶然(ホントに偶然)、作者とタイトルが判明したのである。
いやー、詰まっていたことすら忘れていたような詰まり物が突然すっきりと取れたような、爽快な気分。
それがこれ。カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ「虹のある風景」。
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(1774~1840)はドイツロマン派の画家で、ゲーテの詩「羊飼いの嘆きの歌」にインスピレーションを得た風景画だという。
ひろびろとした自然の風景に相対するひとりの人間(羊飼い)。虹という明るい題材を使いながらモノトーンなセピア色に彩られた憂愁は、フランクの交響曲という作品の、重厚さと透明さ、親しみやすさと取っ付きがたい威厳という、相反するものを兼ね備えた性格によく合っていないか。
また、当時の(16歳の)自分は、このひとりぼっちの羊飼いに自分を重ねて見ていたかもしれない。
フランクの交響曲などというレコードをわざわざ探して買うような高校生なんて、そもそもヘンな奴で友達なんかいないに決まっている。同級生でクラシックを聴く人間はそれでも何人かいたけれど、もっとオーソドックスで普通のクラシックか、さもなくばチャイコフスキーやレスピーギやベルリオーズみたいな派手で分かりやすいものしか聴かないのばかりだった。そんな友達のひとりにある日、フォーレの「レクイエム」の美しさをこんこんと説いたところ、一言「レクイエムって顔かよ」、と返されたことは今でも忘れない(笑)。
まあ、うっかり物事を「考える」ようになってしまった高校生なんてのは、暗く孤独になるしかない訳で。
羊飼いのいるこちら側は薄暗く、枯草や枯れ木が積もっていて、はるか遠くには明るい海が見え、虹がかかっている。
彼方の憧れと希望。そんなものをこの画に見ていたのかな。
ミュンシュ=ボストンのこの曲の録音は、現在に至るまでLPでもCDでも何度も再販されている名盤だけれど、この画が使われたデザインで流通したのは短い期間だったようだ(現物のLPはとうの昔に処分してしまった)。
かろうじてネット上で見つけた画像がこれ。
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの作品をもうひとつ。「ドレスデンの大狩猟場」。
こちらはサヴァリッシュとシュターツカペレ・ドレスデンによるシューマンの交響曲全集のジャケットに使われていた。
これも十代の頃に初めて聴いた思い出深い録音。
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