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2013.01.02

【The SAX原稿】日本のサクソフォン四重奏、その歴史と現在(長文)

私個人的には昨年中の最も印象深い出来事といったら、雑誌「The SAX」に二度寄稿させていただいたことだった。

今まで「バンドジャーナル」と「パイパーズ」には、原稿を書いたり取材を受けたり投稿が採用されたことはあったものの、The SAXは初めて、しかも初回の「サックスカルテットの歴史・日本編」に関しては、顔写真・プロフィール付きで見開き2ページ分を全部任されるという、これも初めての待遇だった。

このとき書いた内容については、一過性のものではなく、誰もがアクセス可能な場所に置かれておくべきものと考えるので、The SAX編集長の特別な許可をいただいて(通常、雑誌掲載分のネット上への転載は、掲載後1年以降が目安なのだそうで、まだ1年は経っていない)以下に転載させていただくことにしました。

同時に掲載した写真等については、こちら(掲載お知らせ時の記事)をご覧ください。
本文以外の若干の惹句、あと章題(小見出し)は、編集部にて付けられました。
また、文章は当初「です・ます」体で書かれましたが、当誌の掲載基準に従って「だ・である」体に直された上で掲載されました。
ということで、以下は私が最初に提出した原稿内容となります。


「日本のサクソフォン四重奏、その歴史と現在」

一.先史時代
 日本の音楽界に「サクソフォン四重奏」なるものが最初に現れたのは、日本人の作曲家による最初のサクソフォン四重奏曲である、斎藤高順(1924-2004、行進曲「ブルー・インパルス」や小津映画の音楽で知られる)作曲の「サクソフォーン四重奏曲」の初演(1952年)に溯ります。音楽之友社から出版されているこの曲の楽譜には、日本のクラシカル・サクソフォンの開祖、阪口新(1910-1997)他、4人の初演メンバーの名前が明記されています。当時はまだ、阪口が初代教授を務めた芸大のサクソフォン・クラスも開設されておらず、ジャズプレイヤーの新野輝雄の名前もあるところから、他の3名はおそらく阪口のスタジオ仕事仲間だったのでしょう。
 日本でサクソフォンカルテットとして最初に公式に活動した団体は、クラリネット専攻ながら芸大阪口クラスの最初の生徒であり、サクソフォン奏者として活躍した宮島基栄が1969年に結成した、アカデミア・サクソフォン四重奏団と思われます。1980年代まで様々な演奏会やテレビドラマの劇伴等で見聞きしています。
 余談ですが、私が生まれて初めて聴いたサクソフォン四重奏は、1977年の秋、日比谷公園の小音楽堂で開かれたアカデミア四重奏団の無料演奏会でした(メンバーはS宮島、A中村均、T石渡悠史、B秋本康夫)。私が高校1年生の時のことです。

二.源流と発展
 1970年代から80年代の初頭にかけて、現在の日本のサクソフォンカルテット界の隆盛の直接の源流となる幾つかの団体が現れました。その最大の存在こそが、サクソフォン奏者として伝統ある毎日音楽コンクール(現「日本音楽コンクール」)で初めて優勝した冨岡和男(1946-)が率いる、キャトル・ロゾー・サクソフォンアンサンブルです。数多くのリサイタルとツアー、単独名義によるレコードやCDの録音、民音室内楽コンクールへの入選やワールド・サクソフォン・コングレスへの日本代表としての参加など、日本における本格的なサクソフォン四重奏団のパイオニアとして、目覚ましい活躍を繰り広げました。
 国立音大を経てボルドーでジャン=マリー・ロンデックスに学んだ下地啓二(1953-)がロンデックスの門下生たちと結成した、東京サクソフォンアンサンブルが1981年にデビューしています。80年代の日本のサクソフォンの発展期に、キャトル・ロゾーと二分する人気を誇っていた記憶は今でも鮮明です。
 この当時の日本のサクソフォン界は、全体にフランスの影響を濃厚に受けていました。キャトル・ロゾーは1978年にフランスのデファイエ四重奏団とのジョイント・リサイタルを開催しており、それが演奏の方向性の大きな転機となっていますし、直接の師事関係はないものの冨岡のデファイエへの私淑は有名です。演奏レパートリーの面での影響は現在に至るまで続いていると言ってよいでしょう。そんな中、アメリカでユージン・ルソーに学んだ前沢文敬(1949-2003)率いるファイン・アーツ・サクソフォン四重奏団の方向性は異色でした。アメリカ仕込みの論理性と因習にとらわれない姿勢と、また前沢自身の優れた文章力もあり、この時代のある種のオピニオン・リーダーとして活躍したものです。前沢の早世もあって今では半ば忘れられていますが、そのDNAは雲井雅人サックス四重奏団をはじめとする現代の幾つかの団体に受け継がれているように感じます。
 視線を東京以外に移すと、関西地域のカルテットの元祖といえる赤松二郎(現・大阪音大教授)率いるパスロ・サクソフォンアンサンブル亀井明良(現・名古屋音大教授)の名古屋サクソフォーンアンサンブル(「パピヨン」と題する1枚のレコードによりその名を残す)といった、主要地方圏でのパイオニア達の結成と活躍もこの頃です。特に、パスロのジャズに傾倒した独自のスタイルとレパートリーは、何度かの東京での演奏を通じてこちらでも知られていました。ここで詳説する余裕はありませんが、関西の独自の文化は、ガヴロッシュ・クヮルテットやトゥジュール・クァルテットといった現代の関西のカルテットにも反映しています。

三.「トルヴェール」の時代
 日本のサクソフォン界が生んだ最大のスター、と言っても過言ではない須川展也(1961-)が率いるトルヴェール・クヮルテットを、そのデビューからリアルタイムで見続けていることは、私にとって大変エキサイティングな経験です。4人ともが傑出したソリストであり、極めて高い技巧と鮮やかな個性、オーソドックスなものから「異端」的な方向性まで自らのスタイルに違和感なく取り込んでしまう柔軟性、既存のファン層を超えた広汎な人気を備えつつ、現在まで25年もメンバー変更もなく充実した活動を続け、大袈裟でなく日本のサクソフォンカルテット界の姿を、自らを境に変えてしまいました。
 トルヴェールの結成直前の1986年に東京デビューリサイタルを開いた、芸大で須川の1級上である中村均一が率いるアルモ・サクソフォンクァルテットは、「トルヴェール以前」の伝統的なサクソフォンカルテットの姿の集大成と言ってよいかもしれません。二度のメンバー交替を経た後、90年代から2000年代初頭に発表した幾つかのCDの素晴らしさにより、解散した今もなお広く聴かれ続けています。
 この世代では他に、国立音大を経てアメリカでフレデリック・ヘムケに学んだ雲井雅人(1957-)が一世代下の弟子たちと結成した雲井雅人サックス四重奏団が、美しくよく調和する響き、というサクソフォンアンサンブルの美点へのラディカルなこだわり、及び既存のサクソフォンカルテットとは一線を画す、独自の極めて精神性の高いレパートリーの開発によって、時代性を超越した立場と評価とを獲得しています。

四.そして現代
 21世紀に入り、クラシカル・サクソフォンの世界では社会現象と言っていい演奏者と聴衆・愛好家の数の急激な拡大が進行しました。この10年ほどの間に東京圏に現れた主要な団体だけでも、ソレイユ・カルテットヴィーヴ!サクソフォーン・クヮルテットクローバー・サクソフォン・クヮルテットカルテット・スピリタスQuatuor Bといった名前が挙げられます。
 それらの中で現在代表的な存在は、芸大同窓カルテットであるクローバー・サクソフォン・クヮルテットと、カルテット・スピリタスの2つでしょうか。私にとってこの2つが覇を競う姿は、30年前にキャトル・ロゾーと東京SEが斯界に並び立っていた姿と相似形で、感慨深いものがあります。
 また、SAXOFOXのような、演奏内容自体はプロフェッショナルのレベルを担保しつつキャラ先行の団体の出現も、時代の反映と言えるでしょう。
 他に、奇才・平野公崇が満を持して結成し、先頃デビューリサイタルを開いたブルーオーロラ・サクソフォンカルテット、昨年の大阪国際室内楽コンクールに登場したサクソフォン・カルテット桜フィグール・サクソフォーン・カルテット、当誌発売のすぐ後にデビューリサイタルを控えるサクソフォーン・カルテット・アテナなど、日本のサクソフォンカルテットの現在・未来は多士済々です。 (文中敬称略)

※雑誌「The SAX」52号(2012年3月25日発売)掲載記事の原文

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コメント

【訂正】アカデミア・サクソフォン四重奏団の結成年ですが、後日、同四重奏団のメンバーだった石渡悠史先生に、1967年9月14日付の同四重奏団第1回定期演奏会のチラシを見せていただきました。
なので、本文中の「1969年に結成」というのは誤りですので、訂正いたします。
参考:東京文化会館アーカイヴ
https://i.t-bunka.jp/pamphlets/42812

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