Sax的ドビュッシー生誕150年記念
クロード・ドビュッシー生誕150周年記念企画コンサート(ノナカ・アンナホール)
オープニングイベント~映像と音で巡るドビュッシー《ラプソディ》の世界
佐藤淳一
コンサート(解説:佐藤淳一)~
サクソフォンとピアノのためのラプソディ
三版聴き比べ(Pf:佐野隆哉)
貝沼拓実(Durand版)
伊藤あさぎ(Ries&Erler版・日本初演)
大城正司(Henle版)
ベルガマスク組曲より プレリュード、パスピエ
弦楽四重奏曲
大城正司(S.Sax)、伊藤あさぎ(A.Sax)、貝沼拓実(T.Sax)、佐藤淳一(B.Sax)
2012年、ドビュッシー生誕150年の年の最後に、大変興味深い催しを聴いた。
「ドクター・サックス」佐藤淳一さんpresentsによる、ドビュッシーのサクソフォンのための「ラプソディ」をめぐる講演と演奏。
残念ながら「オープニングイベント」には間に合わず、7時開演のコンサートから聴いた。
ドビュッシーの「ラプソディ」の、3つの異版を異なるソリストで続けて聴くという、実験的な企画。
一番最初に作られた、サクソフォンの登場する場所がとても少ないデュランのオリジナル版。
ピアノの独奏曲に、何箇所かサクソフォンのオブリガートを入れたような聴後感。
貝沼さんのコメントによると、「コンチェルトではなく、オーケストラの中に座ってソロを吹いているような感覚」があるとのこと。それはこの曲のそもそもの委嘱要件や作曲意図に合致していると思う。
最も新しく作られた、おそらく今後のこの曲のスタンダードとなっていくであろうヘンレ版。
そしてその間に演奏された、Ries&Erler版(ドイツのサクソフォニスト、デトレフ・ベンスマン編曲による)はかなり衝撃的だった。
なんとソプラノ持ち替え(!)で、原曲にないカデンツァが2ヶ所追加され(!)、重音やフラジオがばりばり使われる。
呆気にとられつつ聴いたが、しかしこんなことしちゃって良いのかよ。
演奏は三者三様の見事さで、版の違い以上に演奏者の個性が聞きとれた気がした。
変態的なRies&Erler版は伊藤あさぎさんの真っ直ぐな演奏あってこそと思ったし、貝沼さんの集中と篤実、大城さんの繊細でありながら暖かさといたわりのある音楽はそれぞれに格別だった。
曲の合間合間にも佐藤さんによるスライドを使用した解説が挟まり、これがまた大変に面白い。
私がドビュッシーの「ラプソディ」について知っていることといったら、例えば以前、この曲の自筆譜に関してのブログ記事に書いたようなことだが、それらに関する見解や真偽をもひっくり返されるかのような内容が述べられたのだった。
例えば、この曲の委嘱者であるホール夫人といえば、単なる大金持ちのアマチュアでさほどの技量も持っていなかったかのようなイメージがあるのだが、実はニューヨーク・タイムズにその演奏を讃える記事が載ったり、パリのサル・プレイエル(高名な演奏会場)で自身の委嘱作品のみによるオーケストラ・リサイタルを開催してしまうような、現代の感覚でも勿論、当時としては画期的にすごいソリストであった、とか。
ドビュッシーはホール夫人に、この「ラプソディ」の「未完成のスケッチ」を「送った」、というのが定説だが、実はこのスケッチは未完ではなくこれはこれで「完成」していたものだし、しかも実はホール夫人の元には送られていなかった、とか。
他にも目から鱗、の内容満載で、こんど発行される日本サクソフォーン協会の会誌「サクソフォニスト」に、この件に関する詳細な論文が全文掲載されるそうなので、楽しみに待つとしよう。
コンサート後半は、佐藤さんも演奏に加わっての四重奏。
大城さんがソプラノを吹くカルテットという、これは是非聴いてみたかった。
一発カルテットとは思えないような充実した仕上がりだった。
編曲者は明記されていなかったが、おそらくどちらもアルモ版か。
「版」や「編曲者」についてこれほど追求とコダワリを示している催しなのだから、そういう部分も細部まで徹底したほうが良いと思う。
今日は実は私自身の体調が今一つで、集中して聴けなかった部分はあったけれど、生でこういう貴重な話や演奏が聞ける機会はどうあっても外せない、というのはマニアの悲しい性(さが)ですな。
そのようなマニアの立場、あるいはマニア的演奏者の立場としては、こういう演奏会を一度でいいから開催してみたい、出場して演奏してみたい、プロデュースしてみたい、と夢みるものだけれど、それをこうして現実のものにしてしまった佐藤さんの力量と努力と不屈の意志を、讃えたい。
ドビュッシーの150年祭のメモリアル・イヤーは、かくして終わる。
「150年」というのは実は数字的には少々中途半端で、こんなに話題になったというのはある種例外的な現象だと思うけれど、今年は他に記念年を迎える大物があまりいなかったのかな。
次は50年後だが、実はその前にあと6年で、没後100年(2018年)というのが控えている。
こんどはオーケストラ界等にももっと話題が拡がりますように。
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