【聴いた】シンフォニエッタ静岡…シャルリエの至芸とラドミロー日本初演
シンフォニエッタ静岡 Sinfonietta Shizuoka, JAPAN 第23回定期演奏会(グランシップ・中ホール「大地」)
P.ラドミロー/交響曲(1910、1926改訂、フランス国外初演)
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン独奏:オリヴィエ・シャルリエ
指揮:中原朋哉
(コンサートマスター:長尾春花)
1月最後の日曜日(29日)のこと。
恒例の静岡行き。
指揮者中原さんが紹介に心血を注ぐフランスの作曲家、ポール・ラドミロー(1877-1944)の唯一の「交響曲」の日本初演に、世界最高のヴァイオリニストのひとりと私の信じるオリヴィエ・シャルリエ(パリ音楽院教授)による「メン・チャイ」の一挙演奏、そして静岡(掛川市)出身の現役芸大生ヴァイオリニスト、長尾春花嬢(2007日本音コン第1位)のソロコンサートマスター就任披露と、いくつもの話題の重なった演奏会。
結論から言うと、大成功に終わった。
大成功に終わった印象の直接の原因はやはり、鋼のような完璧さとパッションの完全なる止揚であるシャルリエの鬼神のごときヴァイオリン独奏ではあっただろう。
いやー本当、腰抜かしましたよ。
ここまで凄いソリストによる本気の「メン・チャイ」は、東京でもなかなか聴く機会がない。
東京のオケの定期に現れるクラスのソリストは、こういうポピュラーな曲は意外とやってくれなくて、そういうのを弾くのは海外オケの日本公演に客演する大家か、在京オケの「名曲コンサート」に乗るような若手(中堅)奏者のどちらか、という状況だからだ(私はどちらもそんなには聴かないし)。
けれど、決してそれだけではない。
ラドミローの「交響曲」は演奏時間40分近く、フランク、デュカス、ショーソン、ダンディ等、近代フランスの交響曲の伝統に則った循環形式による全3楽章の力作で、弦の人数を全部合わせても20人足らずの室内オケには少々荷が重い感もあったが、それでも果敢にかつ積極的に、音楽をつくっていた。
聴いた印象は、ブルターニュの音画家・ラドミローにしてはちょっと肩肘張ったところもあり、それでも時折現れる人なつっこいメロディが魅力的だ。
…なんにせよ、これはオケの演奏メンバーやスタッフ、そして聴きにきた人も含めた、この演奏会に関わった全員の「願い」と「意思」の勝利だ、と、いつになく人の数の多い客席を見ながら感じた。
シンフォニエッタ静岡の定期演奏会には私は第1回から通い続けているけれど(時々休んでるけれど)、今年度は震災の影響その他で、歯がゆい思いをすることがことのほか多かった。
各回の曲目も、かなり(無難な方向へと)変更になったりしたし、挙げ句の果てにメインのオーストリア人ソリストが放射能怖さに来日を直前キャンセルしたとか。
あの時はホントに、よく演奏会が開催できたなあという感じで、結果的にはなんとか演奏会の体裁にはなったけれど、残念、というよりは悔しい、という後味が残った。
それもこれも、今回の演奏会が完遂できたことで、挽回できたんじゃないかな、とは思う。
ラドミローという人はラヴェルと同世代人で、ラヴェルと同じくフォーレの門下だったが、同時代のフォーレ門下生の中では一番の才能と言われながらも、ナントという地方都市に引っ込んでしまったため忘れられてしまったそうだ。
こういう演奏会が、上野でも溜池でも初台でもなく、また名古屋や大阪といった大都市でもない、静岡で実現したという意義はとても大きい。
これがきっかけで、ラドミローの交響曲が東京で再演されたり、シャルリエのヴァイオリンを東京で聴く機会が増えてくれたりしたら、楽しいんだけど。
東京でこの曲を演るとしたら誰かな?やっぱり(実は意外と仏物好きな)飯盛さんかな。大友さんかな。矢崎さんはどっちかと言うと生粋のパリジャン、って感じだなあ。…などと空想。
(追記。パスカル・ヴェロさん指揮の仙台フィルを失念していた。「地方芸術」を体現するラドミローの音楽には地方オケこそが相応しいのかもしれない。東京じゃなくても演ってくれるといい。ところで、かつてリヨン管弦楽団でトロンボーンを吹いていたカンブルラン大将は興味を示すだろうか?ちょっと微妙な気もする…)
この演奏会のために、作曲者ラドミローの孫のパオリグ・ラドミロー氏が来日、開演前のプレトークをしたのだが、実はこの日強風のため架線にビニールが引っ掛かったとかで電車が遅れ、ほとんど聞けなかったのが残念。
ラドミローの家から見たブルターニュの海の朝の風景が、プログラムの表紙を飾っていた。(写真)
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