我らがヒーロー、広上さん
日本フィルハーモニー交響楽団 第632回定期演奏会(サントリーホール)
ハイドン/交響曲第60番「うつけ者」
ヒンデミット/交響曲「画家マティス」
R.シュトラウス/組曲「ばらの騎士」
指揮:広上淳一
(コンサートマスター:江口有香)
金曜日(8日)のこと。
日本フィルの今季最終定期へ。
素晴らしかったです。
3月11日のその日にスタートした2011年春季の日フィル定期は、震災後のゴタゴタと、看板指揮者の2人ともがキャンセル→代役という事態により、私たち聴き手にとってもオーケストラにとっても、たいへん不本意というか、不完全燃焼状態のまま推移していた。
このままでは、5月コバケン定期への皇后さまご来場くらいしか明るい話題のないまま終わるところだった。
そんな窮地を救ったのは、やっぱり(日本フィルと縁の深い)広上さんだった。
1曲めのハイドンから、とても明るく開放的な、しかも鋭くエッジの立った量感充分な弦の音が聞こえてくる。
あれ、日フィルの弦ってこんなに良かったっけ?と思ってしまったのが正直なところ。
ハイドンのシンフォニーの面白さを、丁寧に掘り出すかのようなパフォーマンスだった。
6楽章の曲だが、4楽章の終わりを、さあ拍手しなさい、とばかりに盛り上げて、案の定出た拍手をにこやかに制して、また続きを始める。
終楽章では、途中で調弦が狂って演奏が止まり、また最初から弾き直し、という演出付き(楽譜にどう書いてあるのだろうか?)。
続いてのヒンデミットもまた、とても丁寧で伸びやかな演奏で、即物的な新古典的20世紀音楽、としてのヒンデミットというよりは、ハイドンの延長、のような感覚だったと思う。
そして、最大の聞き物は休憩後の「ばらの騎士」。
ダンサー=コンダクター広上さんの本領全開。
見ているだけで思わずニコニコしてしまう、狭い指揮台の上を舞い踊る広上さんの姿。一刻も目を離せない。
その動きにぴったり寄り添う、くっきりと鮮やかなオーケストラの響き。
古き良き時代への賛美と憧れを、光と輝きの中に写像するかのようなこのオペラの本質(それは音楽そのものの本質のひとつでもある)を、20数分の曲の中に見事に描き出す。
演奏時間20分強の作品が3つ、というプログラムなので、休憩をどこで入れるかということも主張のひとつだと思うけれど、この位置というのがまさに納得だった。
曲目的には地味ながら(客入りは見ため6割ほど。決して多いとは言いがたい)、この4ヶ月間の鬱屈した気分を一気にチャラにしてくれるような演奏を聴くことができて、本当に良かった。
私は残念ながら広上さんのリハーサルは見たことがないけれど、きっと地道で丁寧な、しかし的確でモチベーションの高い練習をする人なのだろうと思う。
これは単に、センスの良さや耳の良さだけで成立する演奏ではありませんよ。
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はじめまして
私は9日の演奏会を聞きに行きました
日フィルは初めてでしたが
とても良い演奏だったと思います
それにしても
マエストロ広上の古典は最高です
ちょっとマニアックなプログラムですが
個人的にはこんな良いプログラムはないと思っているので
もったいないなと感じました
投稿: 芳川 | 2011.07.14 00:29
コメントありがとうございます。
広上さんの演奏は、ずっと前にモーツァルトの「ジュピター」に凄く感心したことがありました。
ハイドンも素晴らしかったと思います。
本当に、もっと多くの人に聴いてもらいたいですね。
投稿: Thunder | 2011.07.15 03:13