辻井くんのベートーヴェン
東京都交響楽団 東京芸術劇場シリーズVol.80
作曲家の肖像「ベートーヴェン」
交響曲第1番
ピアノ協奏曲第1番(Pf:辻井伸行)
交響曲第8番
指揮:エリアフ・インバル
(コンサートマスター:矢部達哉)
23日。
演奏会5連戦の最後は、インバル=都響の2回め公演。
一般発売のその日に完売となったという、話題の演奏会だ。
しかし今日の主役は、間違いなく、ソリストの辻井くんだった。
付き人に手を引かれてステージに登場した辻井くん。
オーケストラの前奏の間は身体を前後に揺するように音楽に没入し、直前にピアノの鍵盤列の右端に触れて位置を確認してから、おもむろに弾き始める。
澄んだ湧き水のように清冽で揺るぎのない、すべてに自らの意志を湛えた音たちが、その両手から紡ぎ出される。
満員の聴衆は、息を呑んで聴き入る。
その、ほとんど抽象的なまでの、「音楽そのもの」としか言い様のない高度に純化された世界は、さしものインバル師といえども満身の誠意を以てサポートしてゆく以外にすることがない。
ピアノの和音がおそろしく綺麗なことにも目を見張る。
ピアノって平均律で調律されているはずなのに、どうしてそんなことが?
…なんだかちょっと、聴いていて目頭が熱くなるものがありましたよ。
物凄い才能だ。
実は辻井くんは私、ちゃんと聴いたのは今日が初めてだったんだけど、なるほど、盲人というハンデと話題性がなかったとしても、間違いなくスターになったことだろうと思った。
目の見えない人ならではの、音に対する並外れた集中力というのは、勿論あるのだろうけれど。
立ちあがって拍手したいくらいの気分だったけれど、そんなことをしても彼には見えないので、姿勢を正して、心をこめた拍手を贈る。
アンコールに、「月光ソナタ」の第1楽章。
…
交響曲のほうは、インバルならではの流儀。
「8番」は16型、倍管といういつもの巨匠風スタイル。ゴージャスきわまりない響き。8番でそれをやっちゃいますか(「1番」は14型、通常編成でした)。
しかし、インバルさんの姿勢には、テンポの作り方やら何やら、単純に過去の巨匠へのオマージュや真似というより、21世紀の現在地点から20世紀を経て19世紀のベートーヴェンを見据えるような、ラディカルに透徹した視線を感じる。
こうなったらいっそのこと、このスタイルで徹底して、都響とベートーヴェンの交響曲全集でも作って欲しいと思う。
既にCDが出たのが3、5、7番、演奏したのが9、そして今日の1、8番。残りは2、4、6か。任期中には出来るでしょ。
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