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2010.05.22

憧れを知るもの…雲井さん2010

Masato Kumoi, 100520いろいろなコンサートが重なった20日は、津田ホールに行ってきました。

雲井さんの久々のリサイタル。
曲目・出演者は告知記事のほうを参照されたし。
東京ではシューベルトの「冬の旅」をやった時以来、ということは8年ぶり。
伊藤康英さんのピアノ五重奏伴奏版グラズノフをはじめて聴いた、いずみホールでの室内楽演奏会から7年。
そんなに経つのか、と改めてびっくり。

ぎりぎりで開始に間に合わず、イタリア協奏曲のほぼ全部をロビーのモニターで観る。
終わって拍手の中、客席へ。
あまりチケットが動いていないという(ちょっと前に聞いた)話と裏腹に、ぎっしりと入ったお客さん。
少し空いている前方の列へ突進する。

グラズノフ開始。
前奏がおわり、サクソフォンの音が流れ始めると、照明がぱっと切り替わるように周囲の大気が一変するのを、息を呑みつつ聴く。
休憩後のラーションは更にパワーアップされた世界だった。
2楽章に感動した。
小さな、しかし何か胸がいっぱいになるようなせつなさを包んだ音楽だった。
ラーションという人は寒い北欧の人で、きっとこんなふうに春の暖かさに恋焦がれているのだろうと思った。
「憧れ」を内包した音楽。「憧れ」は大事ですよ。
向上心のある、良い音楽家(音楽家に限らない)は、常になにかに憧れているものじゃないか。
バッハだって、イタリアの輝かしい陽光に憧れて「イタリア協奏曲」を書いたのだし(バッハは生涯ほとんどドイツから外に出ることはなかった)、私たちがバッハに憧れるのだって、そう。

雲井さんという人は、「憧れ」という感情をきちんと自分の中で飼っている人だ。
ということを以前にも書いた記憶がある。

それにしても、ラーションでそういう世界を現出するとは。
ラーションというのは剣呑な作品で、あまりにも難しいので普通なかなかそこまでの境地には到達できない。
プログラムノートにも雲井さんが書いていたとおり、ラーションやマルタンといったシガード・ラッシャー(1907-2001)委嘱作品は、概してそのような宿命にある。
数十年かかって、世のサクソフォン奏者はやっとラッシャーが想定したレベルに近付き、ラッシャーの委嘱作品やラッシャー本人には近年やっと光が当たるようになってきたけれど(そういう意味ではラッシャーという人は、早く生まれすぎた悲劇の人だ)、技術の進化や音域の拡大というレベル向上の成果は、是非「音楽」そのものに還元されてほしいものだと痛切に願う。

そうそう、ラーションの成本さんの編曲ははじめて聴いたけれど、ピアノの物凄く目立つ使い方に最初驚いたものの、2、3楽章は見事だと思った。
もしかしたらこちらの方がオリジナルか、と思ってしまうほどの、驚異的なレベルの独創性だったのでは。

最後は、フルート(N響)とオーボエ(東フィル元首席)の名手2名を迎えて、「ブランデンブルグ」の競演。
的確な、しかし思いのほか控えめなソプラニーノのサウンドが、洗練されたバロック的愉悦を演出する。
フルートもオーボエも、明らかにバロック的な音色を狙っていたように思えたのは、気のせいではないと思う。

後ろから圧力を感じるような(前の方に座っていたもので)終演後の大喝采のあと、アンコールに「アルルの女」のメヌエット、フルート&サクソフォン役割完全逆転バージョン(笑)。
メロディを最初から最後までサクソフォンが担当し、後半のオブリガートをフルートに吹かせてしまった。
オーボエがやりづらそうにユニゾンを付けていたのが印象的(笑)。
こういうことをやってしまう、というのも一種の「憧れ」の産物、でしょうね。
終演後雲井さんご本人に伺ったら、同級生だから無理言ってやってもらえた、と笑っていたが。(フルートの菅原さんと雲井さんは国立音大の同期だそうだ)

さて、「憧れ」とは、存在し得ない、あるいは手の届かないものに対する欲求である(フォーレがそう言っている)。
雲井さんの音というのも、ある種の憧れの対象であり、到達し得ないものだと思っているので、心惹かれつつも敢えて違う道を行ってみたりもするんだけど(そういう人は多いと思う)、この機会に改めて自らを省みて、ちょっと外れ過ぎてたなあ、と反省した。
まだまだこの人に教わることは尽きない。

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