響きの天才…アレクサンドル・タロー
アレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud) ピアノリサイタル~サティ/ラヴェルの夕べ(王子ホール)
サティ/
グノシェンヌ第1番
犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲
グノシェンヌ第3番
世紀ごとの時間と瞬間的な時間
グノシェンヌ第4番
ラヴェル/
亡き王女のためのパヴァーヌ
古風なメヌエット
ハイドンの名によるメヌエット
クープランの墓
一昨年の東京本格デビューリサイタルをやはりここ王子ホールで聴いて、忘れがたい印象を残した(そのときの日記はこちら)フランスのピアニスト、アレクサンドル・タロー。
昨年は聴き損なったが、今年は無事聴けた。
この人は天才である。
音のきれいなピアニストや、巧いピアニストはたくさんいる。
多彩な音色を自由自在に操る素晴らしいピアニストも、何人か知っている。
だけど、この人の演奏のように、音のひとつひとつ、1個1個の鍵盤ががまるで自分の意思を持つように空間を飛んでいる、と感じることは稀だ。
今回はさらに、クープランの墓の「トッカータ」での、音楽の形を内側から壊さんばかりの凄まじいパッションと集中をも、聴いた。
こういう演奏もする人だとは知らなかった。
またあと2年くらい経って聴いたら、そのときもやはり予測もつかないような境地の音を聞かせてくれることだろう。
ひとときも同じところに留まらない感性もまた、天才の証だ。
そのときは、できればまたこの王子ホールで聴いてみたい。
この会場の、ピアノを聴くのにふさわしいキャパと大きさ、お客さんの雰囲気も含めたシンプルに集中できる環境は、他に代えがたい。
休憩なしの1時間プロ。
本プロに感嘆したあと、追い打ちをかけるように聴いた、アンコール2曲めの「海原の小舟」(ラヴェル)。
目の前にいきなり、大西洋の大海原が拡がった。
そんなもん見たことないのに。
この曲はラヴェル自身の手によるオーケストラ版で知られているけれど、ラヴェル本人がもしこの演奏を聴いたら、これをオーケストラ版に作り替えようなんて大それた試みは諦めたんじゃないか、と一瞬思ってしまったくらいだった。
続く2曲のアンコール(ラモー「未開人」とクープラン「シテール島の鐘」)の自在な演奏を楽しみつつ、終演。
ロビーで売っていて、買おうかどうしようか迷っていたラヴェルのピアノ曲全集のCD(harmonia mundi france)を、即買い。
ラヴェルのピアノ曲は、CD2枚に全曲が収まってしまう手頃さもあって、色々なピアニストのCDを衝動買いしては(主に収納スペースの理由で)中古屋に流してきたという過去があって、最近は意識して手を出さないようにしていたんだけど、今日のような演奏の片鱗でも収まっているとしたらやはり、買わない訳にはいかない。
聴いたらレポートします。
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こんなスゴいピアニストをご紹介いただき、Thunderさんに感謝、アゲイン。でなければ、タローを知らずにそのまま一生を漫然と過ごしてしまっていたことでしょう。
私は「世紀ごとの時間と瞬間的な時間」に酔いました。
今度は彼による矢代秋雄のピアノ曲を聴いてみたいです(コンチェルトでも可)。えへへ。
投稿: よねやま | 2009.12.05 01:02
どうです、ワタシの目たては確かでしょう(笑)
この人は、感覚的というより、とても「意志的」なピアニストだと思います(そこが他のたくさんのフランス出身の優れたピアニストと違うところに思えます)。
投稿: Thunder | 2009.12.06 22:24