22歳の輝き
ジョナサン・ウィントリンガム(Jonathan Wintringham)サクソフォンリサイタル -Musical Trends in America- (台東区生涯学習センター・ミレニアムホール)
ウィリアム・グラント・スティル/ロマンス
ウィリアム・オルブライト/ソナタより II. La follia nuova
ジョン・アンソニー・レノン/私の中の距離(Distances Within Me)(日本初演)
エルウッド・ダール/パッサカリア~カール・オルフを称えて(日本初演)*
マイケル・ジャプストロム/ワリマイ(Walimai)(日本初演)
エヴァン・チェンバーズ/ Come Down Heavy! (日本初演)**
Jonathan Wintringham, alto saxophone
Michael Djupstrom, piano
ゲスト
*雲井雅人、蓼沼雅紀(S.Sax)、佐藤渉(A.Sax)、林田和之、渡部瞳(T.Sax)、坂東邦宣、西尾貴浩(B.Sax)
**高木和弘(Violin)
日本におけるサクソフォンの様相、サクソフォンにおける日米関係の研究等のため、アリゾナ大学から奨学金を得て来日中の弱冠22歳、ジョナサン・ウィントリンガム君の、総合研究発表としてのリサイタルを聴く。
これがまた、とても学生とは思えないような、集中とスタティックな熱狂をそなえた輝かしい演奏だった。
驚嘆。
ただ巧い、ってだけではない。非常にスピリチュアルな、「祈り」に似た感情が、演奏の中に自然に感じとれる。
曲目のせいもあるだろう。すべてが、この「曲」を日本の聴衆に紹介するという、強い意思の下に選ばれたアメリカの現代作品である。
スティルの「ロマンス」は、初期のスクリャービンとか、19世紀末のロシア音楽を思わせる孤高なまでに甘美な小品。
オルブライトのソナタの第2楽章「ラ・フォリア・ヌオーヴァ」は、呪文のような狭い音程の動きに始まり、鐘の音を思わせるピアノの和音の連打の慟哭に至る、悲痛な断章。
レノン「Distances Within Me」は、アメリカのサクソフォン界では最早スタンダードと呼んでいい作品だと思う(CDも何種類も出ているので、まだ日本で演奏されていなかったというのは、意外)。これも非常に内省的な、それ自身が「探求」、と言えるような音楽である。
ピアニストの自作自演「ワリマイ」もまた、実に不思議な感触を持つ作品だった。森の奥に住むある原住部族の物語にインスピレーションを得た、とてもシュールレアリスティックで呪術的なプログラムに基づいている。
(豪華メンバーによる)サクソフォン八重奏のためのダール「パッサカリア」は、分厚く派手な音のする作品ではあるけれど、決して「解放」へは向かわない。バーバーの「アダージョ」のクライマックスのように、一点に収斂された音の塊が高みへと昇っていくような、そんな印象があった。
プログラム最後のCome Down Heavy! は、たいへんな熱演だった。ジャズとフォーク・ソング、アイリッシュ・ダンスをぐちゃぐちゃに変容したような作品で、調弦の違う2つのヴァイオリンを駆使するヴァイオリニスト(高木さんは東響のコンマス。これまた豪華メンバー)と舞台上で向かい合い、まるで武術の試合のように進行する。
いやー、「アメリカ」だなあ。
アメリカ音楽というのはどうかすると軽く見られがちだけど、こういう、人間の「死」と「生」を真っ直ぐに見据え、「精神」の深いところに根をはったような感性というのは、その最良の側面だと思う。
理屈っぽいドイツの現代音楽や、あまりにも抽象化が進みすぎた遊戯的なフランスの現代音楽(スペクトル派とか)よりも、私としては共感度は高い。
お客さんは100人弱といったところか。
興行として客が呼べるというような催しでもないし、そもそもお盆休みのさなかで東京に人がいない、ということはあるだろう。
でも、来る人はちゃんと来ていた。
今日ここに来ていた人は、さすがですね、と言いたい気分。
それにしても、こういう演奏会を聴く今の季節の日本が、「お盆」という、死者の霊を年に一度現世に迎え入れる特別な時である、というのは、なんだかとても象徴的なことに思える。
8月12日といえば、24年前のこの日の悲劇は日本人にとって決して忘れられることはないだろうし、私の超個人的な記憶の中では、4年前のある友人の命日でもある。
感受性がすっきりと解放されるような、稀な聴後感の中、終演。
是非また将来、聴いてみたい人だ。
きっとその機会はあるような気がする。
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