野原みどりplays矢代
東京都交響楽団 第674回定期演奏会(東京文化会館)
F.ダニエル=ルシュール/舞踊交響曲
矢代秋雄/ピアノ協奏曲(Pf:野原みどり)
別宮貞雄/交響曲第4番「夏 1945年(日本の挫折と復興)」
指揮:梅田俊明
都響1月の定期は、別宮貞雄先生プロデュースによる、恒例「日本管弦楽の名曲とその源流」シリーズ。
この手の曲目の演奏会にしては、客席は上の階まで実によく埋まっている。
「都響の1月」という催しが、定着しつつあることを実感する。
初耳のダニエル=ルシュール(1908-2002)から始まる。
弦楽とピアノ、ティンパニだけの編成で、とても冷厳で格調高い、しかし動きの多い、ヒンデミットやマルタンみたいな雰囲気だった。
一分の隙もなく礼装を着こなしたダンディな紳士のような音楽だ。
本日の白眉は、あの野原みどりさんがあの矢代秋雄のピアノ協奏曲を弾いた、ということに尽きる。
弾き始めた瞬間からもう、夢のように美しい、クリスタルなピアノの響き。
勿論、暗譜で弾いている。私は4階席にいたんだけど、ここまで直截に届くようなエネルギーを持った強い音であっても、音色の美感が全く損なわれない。
この曲をこんなふうに弾くことが可能だったんだ。岡田博美氏が弾いたNaxosのCDをはじめて聴いたときにも同じようにびっくりしたものだけど、今回はそれを更に上回る驚き。
ドビュッシーの前奏曲集第2巻の世界のそのまま延長上にあるような音世界だ。
選曲者の別宮先生(パリ音楽院でミヨーとメシアンに学んだ)の価値観と美意識を反映して、都響のこのシリーズは、日本の現代音楽におけるフランス流派の影響と成果を見ることが多いけれど、今日のこの曲とこの演奏はまさにその(素晴らしい!)成果だったと思う。
オーケストラの、ソロに触発されたかのようなファンタティックで繊細な音色も、満喫。都響は勿論、元からこういう曲は上手いんだけど、今日はまたちょっと特別だな。
休憩後の別宮先生自身の交響曲は、力作ではあったけれど、少々力が入りすぎちゃった感もある。
この年代の方々にとって、1945年の終戦というのがいかに大きな精神的体験だったか、そしてそれと正面から向き合うことがいかに大変な覚悟の要るものか、をしのばせる。
まあ、元来別宮先生の曲はどれも、音の数が多くて声がデカイんだけど。
演奏は良かった。梅田さんの謙虚で的確な棒さばきぶりに見とれた。
別宮先生本人は臨席されていなかった模様。
どうしたのかな。珍しいことだ。別宮先生は都響の賛助会員だし、今までもコンサート会場でしょっちゅう見かけていただけに、ちょっと心配。
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