2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト
無料ブログはココログ

« ゾルマン指揮の東フィル | トップページ | ミシェル・アリニョン »

2008.09.08

ジャンジャン覚書き

私たちのアンサンブルの今度の演奏会で、ジャンジャン作曲のサクソフォン四重奏曲をとりあげることになっている(私は演奏メンバーではないが)。
今回、プログラム冊子に載せる曲目解説を書くために調べものをしていて、いくつかの発見があったので、覚書きということで書いておく。

この曲は、サクソフォン四重奏の親しみやすく取っつきやすいレパートリーとして昔から大変有名であり、演奏機会も多いにもかかわらず、「F. & M. Jeanjean」という表記のある作曲者についての日本語のまともな情報は皆無に等しい。
この曲のほぼ唯一の音源である、アルモSaxQ.のCDのライナーノートには、「クラリネット奏者でもあるジャンジャンの作品。奥さんとの共同作曲とクレジットされている。」とあるので、これをそのまんま曲目解説に引用した方も多いのではないかと思う。

だが、どうやらこれは間違いのようだ。
この「F. & M.」という連名表記はいかなる事情によるのか、そもそも正確なフルネームは何なのか、というところから調べて行ったのだが、結論から言うと、この曲の作曲者フォースタン・ジャンジャンFaustin Jeanjean(1900-1979)は、1920年にパリ音楽院でコルネットの一等賞を得た人物で、1920-30年代、「スウィング」の時代のジャズ・トランペット奏者、作・編曲者としていくつかのバンドを渡り歩いていたようだ。(参照
フランスで活躍し、のちにハリウッドに渡ったバンドリーダー、Lud Gluskinのバンドメンバーとして、パースネル表記の載ったCDが現在も発売されている。(参照
1927年12月の、Lud Gluskin Orchestraのメンバー写真(こちら)。前列右から2番めがFaustin Jeanjean。中央がリーダーのLud Gluskin。
もう一方の「M.」は、兄弟(おそらく兄)のMaurice A. Jeanjeanのことで、連名あるいは共作での出版であるという記述をいくつか見つけることができる。例えばこちら(真ん中へん)とか、こちら(PDF)

じゃあなぜ、前述のCDライナーノートのような間違いが起こったのかというと、おそらく、今日クラリネットのためのエチュードで有名なPaul Jeanjean(1874-1928、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団、のちにモンテカルロ管弦楽団のソロクラリネット奏者)と混同されたのではないかと思われる。
フォースタン・ジャンジャンもクラリネットのための技巧的な小品を書いているし、自身もミドルネーム、またファーストネームとしてPaulという呼称を用いていたようなので(上記リンク先にも、Faustin Paul Jeanjeanなどという表記がいくつか見られる)、これは間違えても仕方あるまい。
欧米で人名を「&」で連名にするときは、夫婦である場合が多いので、これも勘違いしたのかもしれない。

このCDが発売されたのは、インターネットなどという便利なものがまだ一般的でなかった1994年のことで、ニューグローヴ音楽事典にすら載っていないマイナーな作曲家についてまともな調査をして解説を書く、などということはたいへん困難だったのだろうと想像できる。
家に居ながらにして、これだけのことがちゃちゃっと調べがついてしまうのだから、つくづく便利な時代になったものだ。

【補足】 JASRAC(日本音楽著作権協会)のデータベース「J-WID」を探ってみると、FAUSTIN PAUL IRENEE JEANJEANというフルネームで登録されている。なお、クラリネット奏者のPaul Jeanjeanの作品は既に著作権の保護期間を超えているので、登録されていない。
両者の混同は一部の出版社やショップも陥ってしまっているようで、混乱に拍車をかけている。例えば代表的な楽譜通販サイト、Sheet Music PlusでFAUSTIN PAUL JEANJEANと検索すると、両者の作品が一緒くたになって同じ作曲者名で上がってくる。

« ゾルマン指揮の東フィル | トップページ | ミシェル・アリニョン »

サクソフォン」カテゴリの記事

コメント

ジャンジャンは2度ばかり吹いたことがありますが、そういえば作曲者は何者かなんて気にしたことはありませんでした。何となくサンジュレと同じ頃のようなイメージがありましたが、つい最近まで生きていたんですね。顔写真が残っているとは知りませんでした。楽譜を見ても、Faustinというスペルすらどこにも書いてないんですから、調べようがありませんよね。

この楽譜の著作権表記(マルC)が1949年であることは気づいていたので、それなりに新しい作品であることは判っていましたが、それにしても、ですね。

Faustin Jeanjeanに関する情報は、クラシック分野ではなく、昔(20世紀前半)のジャズ、ビッグバンド関連のデータベース上にたくさん見つけることができたのが意外でした。
あとは、作曲者と、この作品の委嘱元であるギャルド・レピュブリケーヌ四重奏団とのつながりが確認出来れば良かった訳ですが、本文中に挙げたLud Gluskin Orchestraのメンバーに、「ギャルド・レピュブリケーヌ・バンドのベーシスト」であったというA.Pavoniという人物の名前があり、ギャルドの1939-1944年の楽員名簿にもPavoniというサクソルンバス奏者が実在したことから、これは間違いなかろう、と踏んだ訳です。

以後、この作曲者に関する情報のレファレンスになれば良いなと思っております。

Thunderさん。
それって、「家に居ながら、ちゃちゃっと」済ましたような調べもののレベルじゃないじゃないですか!
ギャルドの名簿というのはネット上にあるのですか?

ギャルドの楽員名簿は、残念ながらwebにはありません。と思います。
私が参照したのは書籍です。昨年の11月10日付のエントリで言及している、赤松文治著の通称「ギャルド本」です。
「レファレンス」とはこういう本のことを言うのだ、と、感嘆させられます。

これは面白いですね。私なんかも、どこかで"ジャンジャンはクラリネット奏者である"などという情報を目にして以来、それを信じきっていましたから、目からウロコが落ちる思いでした。

そういえば、ずっと前にクラリネット吹きの先輩にこの曲を聴かせたときに、「これってクラ吹きが書いたんでしょ?クラリネットでやったらしっくりくるかもね」とおっしゃっていました。この素朴でかわいらしい曲想が、ジャンジャン=クラリネット吹きであるという情報の定着を後押ししたような(^^;そんなことを考えてしまいました。

そうですね、この曲、金管吹きが書いたとは思えないような自然な書法ですし、なおかつ最低音域まで遠慮なく使っているところがクラリネット的だとも思えますね(笑)

実は、Maurice Jeanjeanのほうがクラリネット、及びサクソフォンの奏者である、という情報もありました。
ただ、これは裏が取れなかったので書いてはいません。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74078/42412754

この記事へのトラックバック一覧です: ジャンジャン覚書き:

« ゾルマン指揮の東フィル | トップページ | ミシェル・アリニョン »