フランスの響き
東京都交響楽団 第657回定期演奏会(サントリーホール)
ブーレーズ/ノタシオン第1、7、4、3、2番
三善晃/ヴァイオリンとオーケストラのための「アン・パサン」(En passant)
Vn:渡辺玲子
同 /オーケストラと童声合唱のための「響紋」
NHK東京児童合唱団(合唱指揮:加藤洋朗)
デュティユー/交響曲第1番
指揮:若杉弘
都響1月の定期は、別宮貞雄先生プロデュースによる、恒例「日本管弦楽の名曲とその源流」シリーズ。
今回ちょっとびっくりしたのは、別宮先生がなんとブーレーズを選曲したということだった。
ご存じのようにブーレーズといえば、泣く子も黙る20世紀前衛音楽のオピニオンリーダー。かたや別宮センセといえば、前衛音楽の馬鹿馬鹿しさを歯に衣せず告発し続けてきた、日本作曲界の保守派の一大巨頭。
どういうことだろう…と実際聴いてみたら、この「ノタシオン」という曲、元はブーレーズの学生時代の作品だそうで、意外と聴きやすい、ウェーベルン的なアフォリズムの音楽だったもので、なるほどと納得した次第。
パリ音楽院でミヨーの弟子だった別宮先生は、同じフランス音楽の伝統に連なるものとして、ブーレーズのこの作品を選んだのだな、と。
今回とりあげられた3人の作曲家、こうして続けて聴いてみると、響きの捉え方というか、各楽器の倍音列の音まで聴き取って自在にコントロールするかのような精緻な感覚というか、非常に共通点があるように思う。
とくに三善とデュティユーなど、この音色さっきも聴いたぞ、みたいな瞬間が随所にある。(三善さんが若い頃にデュティユーに影響を受けたというのは周知の事実だが。)
デュティユーの音楽は正直、取っつきにくいけれど、この「交響曲第1番」の、間違いなくフォーレやラヴェルの延長線上に存在する響きは、私にとっては吟味して聴く価値のあるものだ。
「フランス音楽」、なんですね。
演奏はたいへん実直でわかりやすいものだったが、もう一歩先のファンタジーも求めたくなるのはゼータクというものか。
音楽的な表出力というか、インパクトの最も強い音楽は、なんといっても三善の「響紋」に尽きる。
児童合唱が淡々と歌う「かごめかごめ」に、オーケストラの強烈な不協和音が襲いかかる。乱暴狼藉の限りをつくすような蹂躙ぶりにも、最後の最後まで淡々と歌い続けることをやめない。
「怖い」曲だ。先日聴いた武満の「系図」とはまた違った意味で、こんなに怖い曲はない。
20年以上前のことだけれど、この曲を何の予備知識もなく初めて聴いたときのショックは、忘れられない。なんだか聴いてはいけないものを聴いてしまったような気分で、しばらく動けなかったものだ。
児童合唱(その昔の東京放送児童合唱団)は、見事としか言いようのない仕上がりだった。オーケストラが滅茶苦茶なリズムでドシャメシャに弾いている部分での臆せぬ歌いっぷり、声質や声量の堂に入ったコントロールなど、大人の合唱団にも全く負けていない。素晴らしい。
« デクリュック、デル・トレディチ、ダンディ | トップページ | 録音 »
「都響」カテゴリの記事
- 【都響10月、惑星とシェーンベルク(10月7日)】(2024.11.05)
- 【都響9月、山下かなひさん(9月23日)】(2024.10.24)
- 【都響9月、大野さん(9月5日)】(2024.09.19)
- 【都響7月(アラン・ギルバート指揮)】(2024.08.22)
- 【都響6~7月(ヤクブ・フルシャ指揮)】(2024.08.06)
「コンサート(2008年)」カテゴリの記事
- 2008回顧(2008.12.31)
- 歳末の「プラハ1968」(2008.12.28)
- 今年も第九(2008.12.27)
- 2008ラスト都響定期(2008.12.17)
- 吹奏楽の古典(2008.12.13)
三善氏とデューティユー、、既知といわればそのとおりですが、あらためてそういわれると、思い起こす箇所がいくつもありますね。。
三善氏の「怖い」作品といえば、私にとっては合唱曲の「オデコのこいつ」です。この曲を初めて聴いたときは、私もしばらく動けませんでした。
投稿: mcken | 2008.01.26 01:53
ブーレーズのノタシオンは
ピアノ曲でもオケでもあるのですね。
知りませんでした(^^;。
ノタシオンは、ピアノソナタのテキストを
ちりばめた曲のように思いました。
投稿: さき | 2008.01.26 02:06
>「怖い」曲だ。
私もそう思いました。「怖い」と感じた詳細は違うかもしれませんが、ともかく音楽が終わって現実に戻ってホッとしました。あのまんまいつまでも「響紋」が終わらなかったら、私は間違いなく「あっちの世界」に行ってしまった気がしてます。
NHK東京児童合唱団、音程良すぎです。そして都響よりデカいffが出せる合唱団を初めて知りました。えへへ。
投稿: よねやま | 2008.01.26 16:00
遅くなりました。
風邪をこじらせて結局会社休んじゃいました。
ひと冬に二度も熱出して倒れるなんて情けない。
>mcken様
「オデコのこいつ」が出てくるところがさすがmckenさんというか。
三善の曲はどれもどこかしら怖いのですが、もしかしたら別格に怖いのは、レコード(CDではなく)でしか知らないのですが、「レクイエム」かもしれません。怖い、というか、「頼むからもうやめてくれ」、って感じです。
最近CDが再発売されたらしいのですが、恐ろしくて手が出せていません…
>さき様
ノタシオンは、解説によると「1945年作曲のピアノ曲」で、31年後の1976年にオーケストレーションされた、とのことです。
>よねやま様
N児、上手すぎです。
調べてみたら、「響紋」は1984年の初演以来のレパートリーだそうで、毎年のようにどこかで演奏しているようです。
子供が集中力を発揮するとすごいことになるもんですねぇ…
投稿: Thunder | 2008.02.01 00:30