初体験、水戸室内管
聴いて参りました、水戸室内管。
昼間は飯能経由で青梅まで父に面会に行き、帰りに上野へ出て特急スーパーひたちで往復してきた。ほぼ半日(12時間)で1都3県を巡ってきたことになる。
これまた目眩のするような、ゴージャスな演奏会でした。
おカネあるよなぁ… と思わず下世話な感想も抱いてしまうけれども(故岩城宏之氏がよく「オーケストラとはおカネの音だ、カネのあるところほど良い音がするのは悔しいけれど現実だ」と色々な機会に言っておられたのを思い出す)、この豪華さは、それにしてもただごとではない。
水戸室内管弦楽団 第71回定期演奏会(水戸芸術館・コンサートホールATM)
C.ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
F.シュミット/弦楽のための交響曲「ジャニアナ」Op.101
V.ダンディ/古風な様式による組曲Op.24
G.ビゼー/劇音楽「アルルの女」(オリジナル版)より
前奏曲、メヌエット、第3幕への間奏曲、第5幕への間奏曲(アダージェット)、パストラール、カリヨン、メロドラマ、ファランドール
A.ルーセル/バレエ組曲「くもの宴会」Op.17
指揮:ジャン=フランソワ・パイヤール
ワタシに「聴け」、命令しているかのような選曲。(以前もそういうのがあったな…)
「牧神」はともかく、他の曲はどれをとっても、この機会を逃したら次はいつ聴けるか判らないだろう。
指揮者パイヤールと言えば、パイヤール室内管弦楽団の名とともに、私にとってはクラシックを聴き始めた頃から名前を知る存在。
実演では10年以上前に、都響や日本フィルに客演していたのを聴いたことがあったが、やはりこういう小さいサイズのアンサンブルの方が似合うように思った。
そして、本日の出演者一覧(プログラム冊子より)。
これで良い音がしなかったら、金返せ、ってなもんだ。全く。
冒頭「牧神」、工藤さんのどソロで始まる。パイヤール氏は合図すら出さない。
虚ろなド#のp(ピアノ)のロングトーンで始まるソロは、つぼみがみるみるうちに花開くように色彩と実体を得て、4小節め、吉野直子さんのハープと、水野さん(元バンベルク交響楽団首席)のホルンへと導かれる。
うわぁ、やられたあ。
ほとんど、フランスのオーケストラの音だ。そもそも木管は基本的にFl工藤、Obジブロー、Clフォーコンプレ(仏国立リル管首席)、Bnヴァレーズ(元パリ管)というフランス4人衆がトップを受け持っているので、さもありなん。
対して弦は、席次がかなり入れ替わる。コンマスは曲によって交替し、別の曲では後ろのプルトに下がったり2ndVnの頭に座ったりする。
シュミットの「ジャニアナ」。難曲にして、非常に重厚な音楽。でもドイツ的な重さとは違う。ところどころ「シュミット節」という感じのひねったリズムが聞こえてくる。コンミス安芸さん。集中力の高い名演。
ダンディ。フルート2本、トランペット1本、弦楽という編成の、擬古的な組曲。Tpは新日本フィル首席のヘルツォーク氏。こういう編成と曲想の音楽でトランペットを吹くというのはある意味「イジメ」に近いものがあるが、さすがのプロ根性で吹ききっていた。
ちなみにこの曲、パイヤール室内管のCDを持っているが、そのCDはTpアンドレ、Flランパル&ラリューというメンバーでした(^^;
休憩後は注目、「アルルの女」劇音楽版。
この「アルル」の劇音楽版については、以前、プラッソンのCDにちなんでこんな記事を書いたことがある。
今回の演奏では、弦は水戸室内管の本来のサイズまで拡張されているし、勿論合唱もないので、普通の組曲版と全く別物という感じでもないけれど、それでも組曲版を聴き慣れた方にはたくさんの新しい発見があると思う。「ファランドール」が、こんなにあっさりと終わっちゃうのか、とか。
サクソフォンはなんと、ジャン=イヴ・フルモー。冒頭の「カネあるなぁ…」とは、主にこのことでもある。これ1曲のためにわざわざフランスからフルモーを呼んじゃうのか、と。
今月のフランス人Sax奏者来日ラッシュのトドメに、フルモーも来るらしい、という噂は聞いていたんだけど、昨日、静岡AOIの楽屋で出演者の方と話をしていたときに「明日水戸に行くんです」と言ったら、間髪を入れず「フルモー?」という反応が返ってきて、やっぱり、と思ったのだった。
フルモー氏の音色は、つるっとした現代フランス風の外見の中に、昔のスタイルに通じる暖かさを備えていて、この曲目には実に似つかわしいと思った。
最後、ルーセル「くもの宴会」。
この曲名、私にとっては「蜘蛛の饗宴」という表記が馴染み深いんだけど、以前デュトワとN響がやったときも「くもの宴会」だったから、今はそういうことになったのかな。なんだかこの表記、雲助タクシーの運ちゃん達が「今日もカモがいっぱいいたぞー」などと騒ぎながら酒呑んでるみたいで、好きじゃないんだけど(^^;
これはすごい傑作だと改めて思った。ファーブル昆虫記を題材としたバレエなんだけれども、科学者の眼で昆虫の世界を観察した原作を、詩人の耳で音楽化した、本物のリアリティとファンタジーを備えた音楽だ。
これこそが、印象派を超えた20世紀フランス音楽の精華ではないか、とすら思う程だ。ブラヴォー。聴けて良かった。
アンコールにちょっとしたサプライズがあったのだが(ある意味予期していたことだったが)、明日(25日)聴かれる方もいると思うので、あとで追記します。
思わず長くなってしまった。
それだけ素晴らしい演奏ではあった訳だが、終わってみると、やっぱり「カネあるなぁ…」という感想が戻ってくる。
そのぐらい、信じられないくらいにゴージャスな演奏会だった、ということだが。
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本日、これから水戸へ向かいます。
>ワタシに「聴け」、命令しているかのような選曲。
私の中ではThunderさんと水戸室内はあまり結びつくものではない感じだったのですが、嗚呼、そうですよね・・・、納得です♪
フルモー氏、ほんとにこれだけで帰っちゃうのでしょうか???
そんな疑問は、私にも。。。?!
アンコールのサプライズ、なんでしょーーー?
楽しみです☆
では、行ってきます。
投稿: ねぇ。 | 2007.11.25 10:25
>ワタシに「聴け」、命令しているかのような選曲。
あれ? 私は(もしくはこのブログを読んでいる私達は)Thunderさんが水戸に対して、この曲を演れと「命令している」と思っていました(そんなワケないよね、えへへ)。
おお、竹原美歌さんがティンパニを叩いていたんですねぇ。彼女のBISから出ているCD"Thirteen Drums"は愛聴盤です。うーむ、こりゃあ、万難排して水戸へ行かなければいけなかったなぁ。来年2月のオペラシティでの彼女のリサイタルはチケットを買いましたが(自由席ですが)。
あとは、そうですよ、ステマネが宮崎さんなんですよねぇ。彼がステージに出てきたら、(ハタから見たら椅子を並び替えているだけなのに)拍手をしてしまいそうです。えへへ。
投稿: よねやま | 2007.11.25 14:22
ねぇ。さま。
>Thunderさんと水戸室内はあまり結びつくものではない感じだったのですが
自分でもそう思います。私はそもそもああいう予定調和な世界にはあんまり興味がないのですが(サイトウキネンに興味がないのも、N響が嫌いなのも同じ理由だと思います)、今回はさすがに特別でした。
逆に、敢えて水戸へ出て行く理由というか口実を見つけることができて、良かったです。
>フルモー氏、ほんとにこれだけで帰っちゃうのでしょうか???
少なくとも、他の外人さん達はほとんど皆そうですよね…
よねやま様。
宮崎さんは舞台には現れなかったようで、実際に椅子運びをしていたのはもう少し若い方でした。
舞台裏の段取りに専念されていたのかな。
ちなみにアンコールは、「アルルの女」第2組曲のメヌエット(例の超有名なフルート独奏ナンバー。劇音楽版には無い)。
フルモーがサックス担いで再びステージに入ってきた瞬間に、「やっぱりそう来るか!」と思ったもんです。
終了後は、工藤重典、フルモー、吉野直子の3人が揃って立たされて拍手を受けるという、これまた卒倒しそうな光景が現出したもんでした…
投稿: Thunder | 2007.11.25 23:43