この夏に買ったCDから。
エリック・コーツの音楽(EMI) ※CD2枚組
組曲「三人のエリザベス」、組曲「ロンドン」、行進曲「全労働者諸君」、木の精、スリーピー・ラグーン、シンデレラ幻想曲、行進曲「ダム・バスターズ」、組曲「ロンドン・アゲイン」他
サー=チャールズ・グローヴズ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル、レジナルド・キルビー指揮バーミンガム市響、サー=チャールズ・マッケラス指揮ロンドン・フィル
エリック・コーツ(1886-1957)は、ワタシが大好きでことあるごとにネタにしている、英国伝統のライト・クラシック界の大物作曲家。生前には「彼こそ音楽を書くために生まれてきた男」、と評されたこともあるという、生き生きとした愉悦にみちた音楽を書く人だ。
当ブログには以前こんなエントリを書いたことがある(「エリック・コーツ」でググってみると、なんとこのエントリがトップに上がってくる)。
英EMIのClassics for Pleasureという廉価盤シリーズの中の1タイトルで、昨年発売されたものらしい。
2枚組のうちグローヴズ指揮の1枚分は既に音源を所有しているのだが、値段が2枚で千円ちょっとだったし、未聴の分だけで充分モトは取れるだろう、と思って買ったのだが、収録曲の中にコーツがサクソフォンとオーケストラのために書いた"Saxo-Rhapsody"(「サックス狂詩曲」と訳すのか。委嘱者シガード・ラッシャーのSP録音の復刻や、ロンデックス門下のKenneth Edge演奏のCDが現在入手可能)という曲が入っており、ここでソロを吹いているのはなんと、あのジャック・ブライマーなのだ。
ジャック・ブライマー(1915.1.27-2003.9.16)といえば、英国を代表するクラリネット奏者としてあまりにも有名な人物。
ロイヤル・フィル(1947-63)、BBC響(1963-71)、ロンドン響(1971-86)でそれぞれ首席クラリネット奏者を歴任、ソリストとしても多数の録音を残し、全英クラリネット&サクソフォーン協会のプレジデントを終生務めながらサクソフォン奏者としても活躍、高名な「ロンドン・サクソフォン四重奏団」を創設するなど(母体となった団体は別にあるようだが)、相当なキャリアを積んでいたであろうことが窺われる。
はからずも、ブライマーのサックスの音を初めて聴くこととなったのだが。…
ブライマーのクラリネットといえば、録音で聴く限り、軽くヴィブラートのかかったまるでサクソフォンのように柔軟な音が印象的だけれど、彼がいざ実際にサクソフォンを吹くとなると、彼のクラリネットを吹く時のサクソフォン的美質というものがむしろ後退して、少々窮屈な印象を持つことになるのが、不思議に思える。
この曲に頻出するフラジオ音域の音を何の苦もなく当てているし(もともとラッシャーの委嘱で書かれた曲なので、サックス本来の音域外の高音が当り前のように出てくるのだ)、技術的には「持ち替え」とか「余技」というレベルではなく、申し分ないところなんだが。
…そういえば、プロ・アマチュア問わず、クラリネットを本業とする方が吹くサックスの音って、わりと共通してそういうちょっと窮屈そうな印象があるように思うのは、私だけか?
クラリネットとサクソフォンは、同じ1枚リードの楽器ではあるが、奏法の最適化という面では越えがたい一線があるのかもしれない。私はクラを吹いたことがないのでよく分からないけれど。
ブライマーのクラリネットの音をいま一度確認してみようと、ロンドン響在籍期間の録音の中から、アンドレ・プレヴィン指揮のラフマニノフ「交響曲第2番」(1973年1月、EMI)の有名なソロを聴いてみる。
この曲の第3楽章の長大なソロを吹くことは、クラリネット奏者にとって一世一代の仕事といっていいだろうと思う。
…これは、すごい。
特にソロ奏者の表記はCDには無いので、ブライマーではない可能性も皆無ではないけれど、何にせよこの甘美な音色と無限大といってもいいニュアンスの豊かさには、聴き終えて思わず溜息をついてしまう。
極めて控えめにかかるヴィブラートが効果絶大だ。フレーズの頂点となる大きな音や、クレッシェンドの音符には絶対にかからないところが、奥ゆかしい。逆にふっとdim.する音符や、ピアニシモの伸ばしに、ほとんどそれと判らないほど軽くかかったヴィブラートは、この奏者の音楽的な趣味の良さというものをこれ以上ないほど見事に表出している。
最近のフランスのサクソフォン界にあっては、どの音にもヴィブラートをかけていたミュール-デファイエ時代の反動か、ヴィブラートは控えめに、かける音とかけない音を峻別した上で多彩なニュアンスを追求する、というあり方が主流となっているように思える。
とはいえ、じゃあ具体的に何をどうする、という話になると、それらの多くはいまだ模索の域にあると感じられるんだけど、視線をサックス外に移せば、なんだよ、こんな身近なところに(しかも30年以上も前のことだ)、これほどまでに秀逸なお手本があるじゃないですか、ということ。
「あのジャック・ブライマーがサクソフォンを吹いている」、というマニアック?な興味に始まった一連の探求は、かくのごとき結末に至るのだった。
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