ジェローム八変化
ヌオヴォ・ヴィルトゥオーゾVol.3 声とサクソフォーン、ピアノ「息の横断」(大田区民ホール・アプリコ小ホール)
1.イエスパー・ノーディン/火から生まれる夢、インプロヴィゼーション(初演)
2.堰合聡/狂言(初演)
3.アンダーシュ・エリアソン/大地(1983、日本初演)
4.鈴木治行/編み目II(初演)
5.小櫻秀樹/むかしむかしあるところにジェロッキオがいました…(初演)
6.ジェラール・グリゼイ/アヌビスとヌト(1990、日本初演)
7.フィリップ・ルルー/青々とした緑に覆われたところ~ジェラール・グリゼイの追悼に(1999、日本初演)
8.鈴木純明/赤と青の対句(初演)
9.野平一郎/舵手の書~吉岡実の詩による(2001、日本初演)
ジェローム・ララン(Sax)1.2.4.5.6.7.8.9.
メニッシュ純子(Sp)4.7.9.
杉崎幸恵(Pf)3.4.8.
ジェローム・ラランが今年も来日。
今日は以前にも書いたように催しが重なっていて最後まで悩んだけれど、結局こちらへ。
さる14日にもコンサートがあって、そちらに行ければそっちに行って今日はスピリタスへ、という選択もありだったが、行けなかったのだ。
それにしてもなんという出ずっぱり。1日に8曲も、どれもこれも世界初演とか日本初演ばっかり、共演相手もピアノ、人声、コンピュータ、無伴奏ソロと様々、楽器もソプラノからバスまで(!)、なんて、準備とリハーサルだけでどれだけの手間と混乱があったことだろうか。
それでもどの曲も、適当に熱演して終わり、なんてことでは一切なく、それぞれの曲にふさわしい集中と熱狂のもと披露されていたことは、驚くというか、呆れるほかない。
楽しみにしていたライヴエレクトロニクスの曲は、なんと1曲めだったので遅れて聴けず。2曲めはロビーで聴いて、3曲めのヤナーチェクが神経症に罹ったようなピアノ独奏曲から中に入る。なかなかの盛況。
舞台上を踊り回るようなパフォーマンス(5曲め。「ジェロッキオ」とは「ピノキオ」とジェロームの掛詞)も含む様々なスタイルの作品が演奏されたが、こうして聴き比べるとまさに野平さんの圧勝、という聴後感だった。なんというか、まるで森の中のケモノ道を抜けてひろびろとした高原に出たように、桁外れに明晰でシンプルな音楽だった。
同じように難解で前衛的な現代音楽の技法で書かれた曲なのに、作曲者のいいたいことがきっちり判るようにすっきりと見通し良く、理に適った音が並んでいるという点で、ここまではっきりと(おそらく誰の耳にもはっきりそう聞こえただろうと思う)差がついてしまうというのは、ちょっと信じがたいものがある。
「格が違う」、というのは、このことか。
そういえば昔(10年以上前)、斎藤貴志さんのリサイタルで、やはり日本人作曲家の現代音楽ばっかり何曲も演奏された最後に、野平さんの「アラベスク第3番」を聴いたときも、同じようなことを感じたっけ、ということを、終演後に久々に思い出した。
それ以外で印象に残ったものといったら、鈴木治行氏の作品かな(この人の曲は以前にも別の場所で聴いて感心した記憶がある)。西洋音楽の構築感とか流動感をいったん解体して、パロディチックに再構成してみせる手腕は、なかなかのものと思った。
ジェロームは相変わらず元気でした。これだけのことをやってのけた後だったら、もう少し疲れた顔してても良さそうなものなのに。
次回の来日は来年1月?とのこと。
« オーティス・マーフィー コンチェルト | トップページ | オーティス・マーフィー マスタークラス »
「コンサート(2007年)」カテゴリの記事
- 2007年回顧(2007.12.31)
- 終了(2007.12.23)
- フェスティバル2日め(2007.12.23)
- フェスティバル開幕(2007.12.22)
- ある土曜日のエルガー(2007.12.15)
>野平さんの圧勝
まったく同感です。
明日の(もう今日か)レクチャーの様子もゼヒ!
投稿: よねやま | 2007.07.21 02:10
おっ、今回もジェロームとお話されました?(^-^)
投稿: 京青 | 2007.07.21 03:45
どうもお疲れ様でした。「舵手の書」が聴けただけで、もう大満足です。いやあ、凄かったです…。
また、個人的には、最初一曲目と、最後の三曲がとても気に入りました。
>ジェロームは相変わらず元気でした。
>これだけのことをやってのけた後だ
>ったら、もう少し疲れた顔してても
>良さそうなものなのに。
た、確かに…(笑)。
投稿: kuri | 2007.07.21 16:05
思い出した。
本文中に書いた、十数年前の斎藤貴志さんのリサイタルというのが、私の野平一郎初体験だったのですよ。
そのときは私の隣席に、まるで宗教団体の指導者みたいな妖しげでカリスマチックな不思議な雰囲気のオッサンが座っていて、何者だコイツ、怖いなあ、と思っていたら、最後の作品の終演後の喝采の中、ゆっくり立ち上がってステージのほうに歩いて行ったのでした。…ご本人だったんですね。
強烈な印象でした。
>京青さん
「deep saxophone fan、」という言葉を賜りました(笑)
投稿: Thunder | 2007.07.22 23:25