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2005.11.22

もうひとつラーション…そして、ラッシャーのこと

第22回日本管打楽器コンクール、全日程終了
昨日の入賞者演奏会には行けなかったが。

特別賞ほかを受賞したトランペット1位の外人さん、本選は聴いたけど、上手かったもんなあ。というか、トマジのコンチェルトをちゃんと「音楽として」吹きこなしている唯一の人だったような。これも妥当な結果でしょう。

3年に一度の「祝祭」が終わってゆくのを惜しみつつ、ラーションのコンチェルトのCDをもう1枚。

cd074

イベール/コンチェルティーノ・ダ・カメラ、マルタン/バラード、ラーション/サクソフォン協奏曲
 ジョン=エドワード・ケリー(Sax)、ユハ・カンガス指揮オストロボスニア室内管(Arte Nova)

いろいろなことを考えさせられる演奏だ。
J-E.Kelly氏は1958年サンフランシスコ生まれ。伝説のサクソフォニスト、シガード・ラッシャー(1907-2000)に師事しその流れをくむ、アメリカに多くいるといういわゆる「ラシェリアン」と呼ばれる系統の奏者と思われる。
ラシェリアンの常として、コーンやブッシャーのような古い楽器を使っているのだろう、かなりに地味で鈍い音色で、演奏もそういう感じなのだが、フラジオ音域はなかなか器用に吹きこなすかと思えば、時々唐突にスラップ・タンギングを使ってみたりして、びっくりさせられる。
要は、普通にクラシックのサックスをイメージして聴いてみると、かなりに困惑というか、「なんじゃこりゃ」という演奏なんだけど。
しかし、世のラシェリアンの方々の演奏を聴いてみると(アメリカではたくさんCDが出てます)、程度の差はあれ、みんなこういう感じだ。

シガード・ラッシャーという人は、このCDに収められた3曲を作曲者に委嘱した当の本人である。我々サックス吹きにとっては大恩人もいいところなのだが、どうもいわゆる「現代のクラシカル・サクソフォン」というものには、かなり批判的な態度というか考えを持っていたように思われる。
雲井雅人サックス四重奏団のサイト内で、雲井氏が非常に含蓄に富んだ内容の連載をなさっておられるのだが、その中に、アメリカで行われたサクソフォン・コングレスの席上、ラッシャーがサクソフォンのパイオニアとしての顕彰を断固として受けなかった、という話を読むことができる。→こちら(6月4日の項)
また、私の友人で、晩年のラッシャーにベルリンでレッスンを受けるという貴重な経験をされた方がいるのだが、どうもそのレッスンで言われたことというのが「音量が大き過ぎる!」というだけで、あまり芳しいものではなかったらしい。「ワシのような老人にそんな大きな音を聞かせて、拷問のつもりか」みたいな言われ様だったとか。

ラッシャーはソロ活動から引退した晩年も、自ら組織した四重奏団で演奏活動を続けていたが、とり上げる曲目は我々に馴染み深いお洒落なフランス物には目もくれず、現代の作曲家に自ら委嘱した作品の数々、あるいはバッハをはじめとする純粋クラシック、を精力的に演奏し続けていた。
ラッシャーは何を考えていたのか。
楽器の改良による音量の拡大や操作性の向上に伴う、表面的なカッコ良さや安直な派手さにシフトした「現代のクラシカル・サクソフォン」に、異を唱えていたのではないか。

倍音理論に基く、楽器本来の音域を超える奏法であるフラジオ音域の開発は、ラッシャーが史上最初に始めたことである。このCDに収められた3曲には、その成果が存分に投入されている。
だがしかし、フラジオ奏法というのは、普通のサクソフォン界では長い間、別に出来なくても困らない「特殊奏法」として、「そんなのがあるらしいよ、」程度の扱いを受けてきた(本当です。皆がフラジオを当り前に吹くようになったのは、せいぜいこの20年くらいのことです)。
「ワシは、狭いサクソフォンの音域を拡張するという意義あるチャレンジを、先例もないまま地道に続けて来たのだぞ、なのにお前らはなんだ、チャラチャラしおって、おまけに人の手柄まで横取りしおって!」くらいのことは考えても不思議ではない。

思わず長文になってしまった。
現代のクラシカル・サクソフォン界にはそういう、ラッシャーの怨念、のようなものがあるのかもしれない、ということを考えさせられる、これはそんなCDだ。
終わっていった(そして、3年後にまたやってくる)コンクールに思いを馳せながら、その「ラッシャーの怨念」を、いつかは過去のものとしてくれるような演奏家の出現を、待ちたいと思う。

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